粉塵と渇水の山
途中で分岐点があった。
登りに使った岩の道と、下りのなだらかなコースを交差する場所がある。
そこから山小屋に戻り、少し休憩をした。
荷物をパッキングし直し、下る準備をする。
懐中電灯に、空のペットボトル。防寒着はまだ必要だなぁ。
その時に重要なものを忘れていた・・・。
なだらかルートの方は、傾斜はゆるやかだがうねうねと蛇行した下りが延々と続いていた。
足下は細かく砕かれた火山石に覆われ、登山靴で踏むとグズグズと崩れていく。
極度に乾燥した砂地を歩いているようだ。
踏みしめる足はずり落ちるように滑り、踏ん張ることで足に負担がかかる。
これは辛い。
最初は道一杯に斜めに歩いてみた。
ゆるい傾斜をさらにゆるくすることで、歩数は増えるがかかとへの負担が減る。
しかし斜めに歩いてもずり落ちる足を踏ん張るため、楽なような気がしない。
それでも我慢して歩いていると、膝の異変に気がついた。
左の膝が痛い。
いや、膝の痛みというより膝の周りの筋が痛む。
筋肉の痛みはなんとなく我慢できる。
そのためにシップも持ってきた。
しかし、筋の痛みは力が抜けるほど痛い。膝から力が抜けていく。
ゆっくりと下ると、左足の一歩ごとに激痛が走る。
これはヤバい。
ストックで体をささえるようにして左足をかばうが、どうにも楽な体勢が見つからない。
右足だけで降りるか?いや、転ぶ危険の方が怖い。
なんとか探りながら歩いていると、かかとから着地するとなんとなく痛みが和らぐ。痛いのだが、まだ我慢できる程度だ。また膝を延ばした状態で降りると、かなり楽だ。
つまり膝で体重を支えると痛みが走るようだ。
しかしかかとから着地し膝を延ばしたままだと、下るスピードがコントロールできない。
次第に転げるような早足で下ることになる。しかも歩き方はコサックダンスだ。
粉塵をまき散らしながら、走るように降りて行く。
砂利道の大きく曲がる角で少し立ち止まる。
次の坂を転がり降り、先の曲がりで少し立ち止まる。
周りの風景を楽しむ余裕はなかった。もっとも、岩と粉塵の砂利道だ。草ひとつ生えていない。
ただひたすら足下をにらみながら、下って行く。
ふと気がつくと、嫁も両親も置いてきてしまった。
来た道を見上げても、どこにもいない。
乾燥した砂利道に腰を下ろして、しばらく待った。
・・・全然こない。
あれっ?道を間違えたか?
そんな不安を感じ始めたところで、両親と嫁が追いついてきた。
「水は?」
「へっ?」
第一声に少々びっくり。
背中のリュックには空のペットボトルしかない。
残りは4分の一程度残った1本のみだ。
「もう無いの?持ってないよ」
どうやら、水を全部持っていったと思われたらしい。
そういえば、下りの途中に水はまったくない。山小屋もないし、当然わき水もない。
乾燥した粉塵の下り坂では、体中の水分が消えてしまいそうだ。
ひとり500mlのペットボトルを持ってきたが、すっかり使い果たしていた。
「この先にあるんじゃないの?」
まったく無かった。
六合目にたどり着いたときには、すっかり干上がってしまった。
