暗闇の9合目
漆黒の山並みにぼんやりとした小さな灯りが何百と続く。
寒く凍える透明な空気な中、ただ上を目指して飛ぶ夜光虫の群れのようだ。
光のひとつひとつは、ひたすら小さく息をしならがゆるゆると進んで行く。
ぼんやりとした頭は、何も考えていない。
どこかの信者ではあるまいが、登ることだけしか考えられない。
ゴツゴツとした岩でできた道を、ひたすら転ばないようにうつむきながら足をすすめる。
空は墨をこぼしたように深い色をしており、頂上は一向に見えてはこない。
ふもとも遠くの小さな町並みの光がぽつぽつと見えるのみで、広がる樹海も暗闇が海のように続くだけだ。
強い風の音が響く。
防寒具の上からも、体温をこそぎ落としていく。
杖が岩を叩き、踏みしめて崩れていく砂利の音が聞こえる。
頂上はひとつだ。
途中にあった、すべての山小屋から、すべての登山者が同じ目標に向かって歩く。
当然ながら、無数の人々が同じ時間に集まるので、ひどく混んでしまう。
登るペースがつかめないななお、ゆるゆると人の後についてゆっくりと歩をすすめると、疲れがさらに増してくる。
終わりのない登りは、まだうつろのままの体では消耗が激しい。
凍えて重くなった体を引きずりながら、休むこと無く歩く。
ぼんやりとした闇の先に小さな鳥居が見えた。
やっと9合目だ。
まだ先は長い。
